2010/12/8 中国放送フォローアップセミナー「メディア・リテラシーの可能性―視聴者コンタクトマップ作り」

 2006年度の実践局である中国放送で2010年12月8日、フォローアップセミナー「メディア・リテラシーの可能性―視聴者コンタクトマップ作り」が開かれ、編成制作、報道、アナウンス、企画、広報、総務など各部署から16名の局員の方が出席しました。会の前半ではメディア・リテラシーの取り組みや考え方がどのように広がり、発展しているかについてのレクチャーを、後半には参加者が日常の業務の中から視聴者との接点を見つめ直し、メディア・リテラシーの活動に繋がる種を見つけ出すための簡易なワークショップを行いました。また、広島経済大学メディアビジネス学科の学生4名も参加し、大学生たちが抱いている広島の放送局のイメージについて意見交換する時間も設けました。
sDSCF5778.jpg●開催にいたるまで
 中国放送からフォローアップ参加の意向を受け、アドバイザーを担当することになり、どのような取り組みを行うかについて、今回窓口となられた総務の方らと数回ミーティングを重ねて検討しました。中国放送の場合、実践したのは4年前であり、当時担当された方がすでに退職されていること、子ども達とのビデオ番組制作など個人的な取り組みはあるものの組織としての活動は継続されていないこと、メディア環境もメディア・リテラシーの取り組みも変化していること、などからフォローアップと言っても、2006年度の実践の振り返りに重点を置くのではなく、実践後の時間を埋めつつ今後の展開に繋がる内容にしようということになりました。最終的には、そもそもメディア・リテラシーとは何かを改めて問いつつ、実践年度以降の取り組みがどう展開したのかについてのレクチャーと参加者の方に自分自身とメディア・リテラシーの接点を認識してもらえるような作業をすることにしました。
DSCF5793.jpg●メディア・リテラシーは「メディア文化を共に創造する営み」へ
 当日のレクチャーは「ソーシャルメディア時代のメディア・リテラシー」というタイトルで「メディア・リテラシー概念の発展と取り組みの広がり」「民放連プロジェクトの展開」「課題と展望」について話をさせていただきました。「視聴者の批判的な読む力」と捉えられていたメディア・リテラシーが、「送り手/受け手の読み書き能力」へ、さらに「メディア文化を共に創造する営み」へとその概念を発展させてきたこと、また、学校や放送局だけでなく、ミュージアム、NPO、商店街などと取り組む場、担い手も多様化していったことなどを話しました。また、民放連プロジェクトとしても、協働のミニテレビ番組作りに留まらず、ラジオコミュニティの再生を目指すものや広報活動と結びつけた新たな取り組みも行われており、さらに過去の実践局の中には地域の市民がメディアを活用、情報発信するための情報センターを運営する試みなどもあることを紹介しました。課題としては多忙な日常業務の中での継続や直接関わっていない人への浸透の難しさ、即効的な効果の伝えづらさ、などがあげられるものの、ローカル放送局が地域で放送を続けていく上で、それを受容する視聴者に向き合うことは肝要であり、視聴者と繋がり、共に地域を盛り上げていこうとする、また放送局自身が進化していくメカニズムとして、メディア・リテラシーは有効な概念であり、取り組みになる、と話しました。
sDSCF5807.jpg●視聴者との接点はどこに
 後半の「視聴者コンタクトマップ作り」では、それぞれの局員の方が視聴率ではなく、視聴者と顔を合わせる接点を見つめ直す作業を行いました。進行は中国放送の方が担当され、参加者全員が付箋にそれぞれの視聴者との関わりを記入し、それを発表しながらホワイトボードに貼り付け、皆で共有するという試みを行いました。取材相手、番組への視聴者参加、視聴者からの電話対応、放送番組審議会への出席、講演依頼、町内会の飲み会への参加、大学時代の恩師の授業で話す、など多岐に渡りましたが、分類すると「番組制作」「交流・ヒアリング」「視聴者対応」「社内見学」といった日常業務としての接点と、「講演・講義」「地域活動」「反応」という局員の社会生活も含めた接点が浮かび上がってきました。
sDSCF5809.jpg 特に意識していなくとも、視聴者との接点は多様にあり、整理して結びつけたり、一工夫して磨き直したりすることで、ともすると制作した番組を流す、視聴者の声を聞く、という回路が結びつかず言わば平行線のように交わらなくなってしまう矢印を輪のように結びつけ、相互理解に向けた視聴者との対話の回路を開いていけるのではないか、と思える結果となりました。こうした接点をどう具体的なメディア・リテラシーの取り組みへと結びつけていけるかという議論を丁寧に行う時間がなく非常に残念でしたが、それは可能だし、一人ひとりの日常の中にメディア・リテラシーの取り組みへのポテンシャルがあることが改めて感じられました。
●地域に根ざす放送局のこれから
 セミナーでは、事前に15名の学生に広島県の放送局5局、中国放送、NHK、広島テレビ、広島ホームテレビ、テレビ新広島のそれぞれのイメージをイラストと言葉で書いてもらい持参しており、出席した学生には直接説明してもらいました。ドラマやクイズ、お笑いなどがあがる他の民放局と比べ、中国放送は広島を取り上げる番組が多く地域密着で親近感がある、という意見が非常に多かったです。また、このイメージ比較に参加された局員の方々が非常に関心を寄せていられたのが印象的でした。
DSCF5801.jpg 時間が足りず叶いませんでしたが、個人的にはもう少し一人ひとりの局員の方の話を伺いたかったし、その先の議論から具体的な面白いアイディアが生まれてくるように思えました。今回の1時間半の短いセミナーで伝えられたことも理解いただけたことも限られているとは思いますが、広島の人々に根ざした実直な取材、番組制作を行っており、老舗で信頼の篤い中国放送であるからこそ、広島のメディア・リテラシーの牽引役となって、相互理解に基づく放送局と市民の関係の再構築、新しいローカル放送局のあり方をデザインしていって欲しいと願いますし、また可能であるだろうと期待しています。
(土屋祐子/広島経済大学)

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