08/10、初顔合わせ ―南海放送実践レポート

 2008年10月、南海放送ラジオセンターが取り組んでいる民放連メディアリテラシー実践プロジェクトが、具体的に始動しました。当初は他の実施局と同じように、ワークショップを軸とした番組制作活動が想定されていましたが、ラジオに対する子どもたちの関心が薄い状況で、いきなり番組づくりを体験するというのは何か足りないということで、これまでにないタイプの実践を展開することになりました。
 プロジェクトの名称は、「マホラマ。–愛媛のワカモノ☆コミュニティ」。既に書いたように、ケータイとウェブサイトを積極的に活用しつつ、ラジオにしかできないことを仕掛けていこうというのがねらいです。もう少し踏み込んで言えば、次のような目標を設定しました。

  1. 高校生たちが、ケータイやウェブサイトをクロスメディア的に用いつつ、放送局のみなさんのサポートを得つつ、あるテーマのもとに地域の人びとの声を聞き、音源を手に入れ、番組を構成し、マイクの前で語り、リスナーのコミュニティの生み出すことを体験することを通じて、デジタル時代のラジオというメディアの課題を批判的に吟味し、その可能性を実践的に体感する。さらに、そのことを通じて、地域の多様性や人間のあり方など、ラジオを通して見えてくる社会の諸相についての認識を深める。
  2. 放送局のみなさんが、若い高校生たちとともに、クロスメディア的な番組づくりを経験することを通じて、若者のリアリティを体感するとともに、日常化した業務を新たな角度からとらえなおし、批判的に吟味し、ラジオというメディアの課題と可能性を改めて意識しなおす。さらに、そのことを通じて、デジタル時代のローカル民放局のあり方についての認識を深める。

 これを実現するために、水越研究室が民放連プロジェクトとは別に進めているメディア・エクスプリモ(独立法人科学技術振興機構(JST)のCREST研究の一つ)が研究の一環として生み出した「ケータイ・トレール」を、民放連プロジェクトで実装するというかたちをとることになりました。メディア・エクスプリモとしては、その成果をラジオにおいて実装し、広く社会実験をおこなうことになります。
 10月5日(土)は、このプロジェクトに参加する高校生たちとの初顔合わせでした。その前日に水越伸さん(東京大学大学院情報学環)、沼晃介さん(東京大学先端科学技術研究センター)、飯田豊(福山大学)の3名で松山入りし、南海放送の山内美帆子さん、平田瑛子さんと、これからの方向性に関する打ち合わせをおこないました。
ws1-2.jpg そして、初顔合わせ当日には、愛媛県立伊予高等学校愛媛県立伊予農業高等学校、愛媛大学農学部附属農業高等学校(今年度より愛媛大学附属高等学校)、愛媛県立松山商業高等学校新田青雲高等学校の高校生たち、合計14名が南海放送を訪れました。山内さんと平田さんたちが、街なかでのスカウト活動、高校訪問、ウェブサイトでの公募など、さまざまな方法で声かけをおこない、それに応えてくれたみなさんです。高校生たちを迎えたのは、局員の方々だけでなく、普段から局で内勤のアルバイトをしている大学生のみなさん。4つのグループに分かれた高校生たちに一人ずつ付き添い、これからの活動をサポートしてくれる実に心強い存在です。
ws1-4.jpg まず、飯田が民放連プロジェクトの主旨を少しだけ説明させていただき、当日の朝に松山にいらっしゃった駒谷真美さん(昭和女子大学)が、メディアリテラシーに関する事前アンケートと個別インタビューを実施しました。
 この日に実施したワークショップは、(1)ケータイを使った自己紹介ムービーの撮影と鑑賞、(2)局内見学のなかで「イメージと同じ」「イメージと違う」と感じた写真をグループごとに撮影し、お互いに発表し合う、というものでした。
 (1)は今後の活動に関連する、準備運動的なワークショップ。会場が賑やかだったため、うまく声が拾えなかったり、機種によって画質が違っていたりということがありましたが、ケータイでどういったムービーが撮れるのかということを体験的に理解することができました。みんなが撮影したムービーのデータをコンピュータに保存し、プロジェクタでいっせいに投影した様子は圧巻でした。
 (2)は似たような試みを今年、富山チューリップテレビ岡山放送でも実施しており、初顔合わせの会合で局内見学と併せておこなうのに適しているワークショップです(したがって、ここでは詳しい説明を省略します)。事前の計画には無かったのですが、案内役の山下泰則さん、戒田節子さんのはからいで、ラジオスタジオの見学のさい、生放送中の番組に高校生たちが飛び入りで出演するという体験もしました。そういった即興ができる柔軟さや軽快さがラジオの魅力である一方、放送に声を乗せるということは社会的責任がともなう営みだということも、高校生たちに身をもって学んでほしいと思います。
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ws1-12.jpg 会合の最後、高校生たちにダイヤル式のポケットラジオがプレゼントされ、みんなでチューニングをしてみました。普段からラジオを聴いているという人は、ごく少数でした。ダイヤルをひねってチューニングをするのは、どうやら高校生たちにとって初めての経験のようです。
 南海放送が取り組む民放連プロジェクトは、毎週日曜夜11時から1時間放送される「1116 night school 第一マホラマ。学園」という番組のなかで、継続的に紹介されることになります。プロジェクトに参加するために集まった高校生たちは、この番組では「生徒会(ユース)」と呼ばれており、ちょうど初顔合わせの日の夜が最初の放送でした。初MCの現役女子大生マリィーさんが「新任英語教師」、ベテランMCの藤田晴彦さんが「教頭先生」、プロジェクトをサポートしてくれる大学生たちが「教育実習生」、そしてディレクターの平田瑛子さんが「学園長」という位置づけ。中高生のリスナーが学園の「生徒」ということなので、その他のリスナーはメール投稿のさい、「保護者」もしくは「PTA」と名乗るルールになっているそうです。
 この番組自体と民放連プロジェクトとは、成り立ちの経緯からして互いに独立しているものの、ある部分で重なっているという難しい関係にあります。この両方を軌道に乗せるための苦労は大変なものですが、高校生のみなさんがラジオに関するメディアリテラシーを総合的に学ぶにあたって、そして局のみなさんがラジオの新しい価値を模索するにあたって、とても豊饒な土壌が整ったといえるのではないかと思います。
(文責:飯田豊/福山大学)

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