実践のまとめーMedia Conté 2008 in 可児 Vol.1

メディア・コンテ・ワークショップ 2008 in 可児  
“Media Conté Workshop 2008 in Kani”
【概要】
 2008年8月20から23日にかけて、メディア・エクスプリモ水越グループは、愛知淑徳大学コミュニティコラボレーションセンター(CCC)、NPO法人国際交流協会、ケーブルテレビ可児などと連携し、岐阜県の可児市において「メディアコンテ2008in可児」を実施しました。
 今回の可児市での実践は、今日増加の傾向にありながら地域社会で十分に理解されているとはいえない外国籍の子どもたちに焦点を当てました。今回のプログラムは、エクスプリモ水越グループがワークショップの内容や手順を考案、愛知淑徳大学の学生たち12名がワークショップで外国籍の子どもたち11名に映像制作を指導するというかたちで行われました。
  活動の大枠は、可児市に住む外国籍の子供たちが、普段の暮らしで感じていることや伝えたいことを自ら絵コンテにし、それをもとにデジカメで撮影した写真画像をつないで一人一人のストーリー(1分半か2分)を制作し、できあがった映像作品をシンポジウムとケーブルテレビで上映する、というもの。
プログラム
■事前準備
2008年8月20日(水)
   12:00〜 ※前2日は愛知淑徳大学の学生のみ
素材、機材確認
プレ実践、リフレクション
       
2008年8月21日(木)
11:00〜 プレ実践の続き
       プレ作品の上映、リフレクション
       ワークショップのキット作り
■当日プログラム
2008年8月22日(金)
   13:00〜13:15 はじめに
   13:15〜13:35 ワークショップ1 「ベストショット!で自己紹介」
   13:35〜13:55 ワークショップ2 「写真組み合わせストーリー」
   13:55〜14:00 休憩
   14:00〜15:30 ワークショップ3 「5コマ紙芝居をつくろう!」
          お題タイム
          質問タイム
          連想タイム   →   紙芝居(絵コンテ)づくり
   15:30〜16:15 中間発表
   16:15〜16:30 明日にむけて
2008年8月23日(土)
  9:00〜9:30 集合、データ収集
   9:30〜10:30 絵コンテ制作 
   10:30〜12:30 映像制作 「Windows Movie Maker」
   12:30〜13:30 お昼休憩
   15:30〜   上映会
   16:00〜 振り返り
活動内容
■ 事前準備
 愛知淑徳大学にて、ファシリテーターとなる大学生自身が、ワークショップの全体像を捉え、理解するとともに、Windows Movie-Maker、写真や録音機材など、技術的な知識や表現能力を深める意図でワークショップを一通り実践的に試行しました。参加した人数は、一日目12名、二日目11名。
 一日目の8月20日(水)はワークショップに必要な機材を確認し、本番の活動と同じように、家族をテーマにしたストーリーを、二人一組になってふせんを使って考えていきました。その上で、最終的にストーリーがどのようなものになるか、デジカメで撮ってくる画像をどんなものにするかを決める作業を行い、この日の最後には、作品がどのようなものになっているかを全員に簡単に発表してもらう時間をもちました。その事から見えて来たのは、実際に人の作品に触れ、自分のアイディアや思いを言葉にして伝えるという活動を通じて、自分だったらこうする、こんなアイディアはどうか、といった議論が作り手である学生の中から起きるということ。作品を仕上げていく上でこのように多数の参加者の視点でストーリーの面白さや可能性を引き出していくことが、それぞれの気付きや新たな感性の芽生えの場となることを確認でき、実践のプログラムでも全体での鑑賞と討論の場がとても重要だと感じました。結果的に、当初予定には入れていなかったこの中間合評会を当日プログラムに入れよにしました。
 二日目の8月21日(木)は一日目に宿題でとり集めてきた写真(やデータ)を実際にパソコンに取り込み、絵コンテを創っていく作業、絵コンテから実際にMovie Makerを使って映像にし、声を録音していくという仕上げ作業を行いました。
 最後に作品上映の時間をもち、それぞれの選んだテーマ「おばあちゃん」や「家族」などに対して感じていることを表現/鑑賞し合う時間としました。絵コンテ通りの写真がとれなかった、データがうまく取り込めなかった、録音した音声が聞きづらかった、こまめな保存が必要など、ワークショップを実際に行う中で起こりうる課題をたくさん捉えられたことが、本番で大いに活きることになりました。
■当日プログラム
●ワークショップ1 【ベストショット!で自己紹介】
 子供たち自身が二人一組になってチェキを使って相手のベストショットを撮影。シールを使って余白の部分に投票合い、そうして選んだ一枚を使って、ネームプレートを作成。当日会場に集まった子供たちが、楽しみながらできるだけ自然に場に適応すること、パートナーとお互いに「写真を撮ってみる」行為を通じて、機材に慣れること、工夫して印象的な写真を撮ることなどを促しました。
●ワークショップ2  【写真組み合わせストーリー】
ペンギン、温泉、鯉、すいか、などさまざまな写真を20枚ほど用意しておく。その中から子どもが各自1枚を選び、ワークキットに用紙された自分の台紙に貼り付けます。台紙は子ども1人に1枚(A4サイズ)。ペアになった2人はお互いの台紙をつなぎ合わせ、大きなシートを作ります。紙には、一方の端に写真、もう一方の端に別の写真、真ん中に空欄が1箇所あるかたち。参加者はこの2枚の写真をつなぐようなストーリーを作らなければならず、「スイカ」と「温泉」など全くストーリーが思いつかないような組み合わせからどのようにストーリーを作り出すかがこのワークショップのポイントです。
RIMG0435.JPGまず、それぞれの写真から連想されるものを自由に言い合いながら、ふせんに書き込んで写真のまわりに貼り付けていきます。そのうえで、書き込まれたイメージを手がかりに、それらをいろいろにつなぎ合わせてみてストーリーを作っていきます。中には難しい組み合わせもあり、
うまくできるか心配されたけれど、子どもたちは豊かな発想力でストーリーを作り上げていきました。中には参加者が大笑いするような残酷なストーリーもあったほど。「新幹線」が「蛇」になるといったアイディアも、子どもたちならでは!当初うまく行くか最も心配していた活動でしたが、結果的には本番の絵コンテづくりのためのよい準備体操になりました。
 ●ワークショップ3  【5コマ紙芝居】
RIMG0448.JPG名刺サイズのお題カードを1人5枚用意
します。実際に使用したお題・・・
「わが家の発明」
「わが家の宝物」
「わが家の晩ごはん」
「通学路」
「これ、やっかいやわ」
 これらをストーリーのもととなるテーマとし、質問ゲーム、連想ゲームという対話の形式でお題から出てくる子供たちの自由な発想をポストイットに書き出し次々台紙に張っていきます(A3サイズ)。さらに、紙芝居作り用の台紙を用意(A4サイズ×5)。A4サイズの各コマにはビジュアル欄とキャプション欄があり、つまり台紙全体で、ビジュアル欄とキャプション欄の組み合わせによるコマが5つある状態。台紙とお題カードは子ども1人に1セット。
RIMG0480.JPG 流れとしてはまず子どもが各自、お題カードの中から自分のテーマを選びます。さらにその中から、具体的に自分のストーリーの題材を考えることに。その際、それぞれのお題から想起されるものを大学生が子どもに聞きながら、うまく題材を引き出していきます。当初チームの中で質問し合って、子どもがそれに答えるという形式をとる予定でしたが、言語の問題もあり、自然と大学生と子供のほぼ一対一の組み合わせができあがったため、その対話で進行しました。そしてファシリテーターなどの大人たちはチームをはっきり固定しそこに常時居るのではなく、2人あるいは3人のチームの中をぐるぐる回り、補助的に質問や物語形成に関与しました。子供たちは、 出てきた題材をふせんに書き込み、必要に応じて分類しながら次々台紙に貼り付けていきました。前日に同じ経験をした大学生たちは、想像以上に子どもたちのストーリーをうまく聞き出し、テーマやクライマッ クスを見つけ出すことでストーリー化していきました。
 次に「紙芝居作り」。台紙に貼り付けられたキーワードをもとに、5コマ分の紙芝居を作ります。ふせんをキャプション欄に貼り付けたり、ビジュアル欄に絵を描いたり、などなど。紙芝居とはいえ、形式は絵コンテなので、これがデジタルストーリーテリングの絵コンテの原型となるかたち。
 最後に子どもたちのストーリーをお互いに発表しあいました。この時は、当日の時間配分がかなり厳しくなってしまったことがあり、前日のように効率的なアドバイスができませんでした。しかし、すでにこの段階で十分にストーリーは練り上げられている状態で、中には、明日までに宿題としてもってくる写真をこれと、これと、一枚一枚丁寧に書き出し、子どもたちに伝えている学生たちもいました。 
●映像編集
ST280013.JPG
前日に撮影してきた写真をプリントアウトし、紙の上で絵コンテを作ったあと、Windows Movie Makerで1分半から2分のストーリーを作っていきました。子どもによってはナレーションが難しい場合もありましたが、大学生が根気よく付き合い共同作業を進め、予定の3時に間に合わないチームもいくつかあったものの、ほとんどがお昼過ぎには仕上がっていました。
■ 上映会
RIMG0440_3.JPG
出来上がった作品は23日に多文化共生センター「フレビア」で開いた「外国人の子どもの教育を考えるシンポジウム」で発表しました。 子どもたちが、一緒に作品づくりをした大学生と共に、交流協会や集まった地域の人たちの前で「名前、学年、何に関する作品か」を発表し、作品を上映する形をとりました。子どもたちは緊張している様子は見られたものの、自分のストーリーが作品になって見知らぬ人に公開されることを恥ずかしがりつつ楽しんでいる様子が印象的でした。出来上がった作品は10月25、26日にケーブルテレビ可児で放送されることになっています。
■振り返りと展望
 当初は、大学生が子どもたちの物語づくりを全般的にファシリテートすることは難しいかもしれないと考えていました。しかし、実際には大学生が驚くほど見事にファシリテーターとしての役割を果たしました。中にはなかなか物語が連想されず、足踏みする子どもたちもいましたが、大学生と子どもの間の信頼関係と相互理解が作品づくりを通して形成されると同時に、それが作品自体に反映されるかたちとなりました。実際に、実践に参加した中には、人生が変わるような大きな体験になったと言う学生もいたほど。外国籍の子どもたちの、アイデンティティに関わる製作/表現活動のプロセスは、そこに一番近くで寄り添った学生たちが、物語の「編集者」としての自覚と責任を得ていく過程でもあったといえます。最初はこわばった顔つきでフレビアに集まって来た子どもたちの表情は、時間を追うごとに柔らかくなり、なかなか焦点の定まらなかった目線も、最後にはきちっと大学生や大人と向き合うようになっていました。同時に子どもたちのアイディアものびのびしたものとなり、率直さ、斬新さ、優しさに溢れ、2分半の内にも多くを語りかけてくるものとなりました。あるキーワードを手がかりに、自分のこと、家族のこと、日常のことを語り始める、あるいは物語にはならない単語レベルの、それでも確かに彼らの中にある思いをポツリ、ポツリと表現し始める・・・大学生がそれを拾いあげ、深め、広げていく。その過程の中で、相互に自分たちのアイデンティティを再確認していくことが、探り探りに、しかし確実に達成されていった2日間でした。RIMG0428.JPG
 
 また、実践を終えて、国内のいくつかの地域から、今回の可児のような実践をやってみたいというオファーがありました。エクスプリモとしては,異なる地域でのこうした実践をいかにネットワーク化していくかが今後の課題と言えます。(執筆:稲葉莉奈/執筆協力:小川明子・伊藤昌亮)

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