実践をめぐるエッセイー”Keitai Trail !” in Ars Electronica Vol.2

今回の”Keitai Trail !”での私の役割は、おもにふたつあった。ひとつはロゴ、ポスター、バナー、ティッシュ等のグラフィックデザインで、もうひとつはワークショップの現場での参加者とのやり取りである。と言っても現場にいられたのは正味まる3日間だけで、参加者へのワークショップの説明やビデオシューティングに慣れる頃にはもう帰国の日、という有様だった。しかし短い滞在なりにも現場で思ったことを、自分の興味の対象であるデザインに引きつけつつ、ここに書いてみたい。
1)市民表現と「遊び」の関係
会場に来てくださった方の中に、このワークショップを「『ゲーム』ではなく『遊び』だ」と指摘された方がいた。「遊び」の定義や、「遊び」と「ゲーム」の違いといった話をここでは掘り下げるつもりはないが、これまでワークショップのことを「遊び」として考えたことはなかったなぁということに思い当たった。たしかにこのワークショップは、参加者にとっては「遊び」だったのかも知れない。
たとえば、ちょっと飛躍するようだが、大縄跳びのことを考えてみる。大縄跳びは、ご存じのとおり、長いロープの両端を2人が持ってまわしている中に1人ずつ入っていき、ロープを跳ぶというだけの遊びだ。ときには「お入んなさい」というかけ声に応えて、1人ずつロープの中に入ってゆく。何人同時に入って跳ぶことができたか、また何回続けて跳ぶことができたか、その数を増やすことを楽しむ。だから最初の1人目でロープに引っかかって止まってしまったとき、誰かの失敗で連続回数記録がとぎれてしまったときに、私たちは「あーあ」という声をもらしてがっかりする。
なんかこの感じ、今回の”Keitai Trail !”に似ているなぁと、リンツで過ごした数日をふり返ってみて思う。前の参加者が残した次の人への質問に「難しいなぁ」とボヤきながらも次の人が飛び込んでいく感じ、1人ずつケータイカメラの前に立って話し、そのムービーひとつひとつがつながって全体で大きなまとまりをつくっていく感じ、今思い出してみると、スタッフ、参加者、オーディエンスみんなで大縄跳びをしているようだった。
もちろん、大縄跳びと”Keitai Trail !”には、似ていないところもたくさんある。そもそもワークショップは目的があっておこなうものだし、”Keitai Trail !”には小さな表現の集積から思いがけない展開が出てくるという驚きもある。なにもかもを大縄跳びにあてはめて考えたいわけではない。つまりここでなにを言いたいのかと言うと、なんだか面白そうに見えたり自分も参加してみたくなるような感じとか、「お入んなさい」というかけ声の感じとか、そういう「遊び」に見ることができる要素が、ワークショップにとって大事なのではないか、ということである。ワークショップをデザインするときには、つい、参加者はすでに参加しているという前提でプログラムを考えてしまうのだが、内輪うけ的な感じではなく、もっと普通に誰でもロープの輪の中に入っていけるような雰囲気をデザインできるともっと良いな、と思った次第である。
2)人と人とがつながるデザイン
今回の”Keitai Trail !”の面白さは、毎日持ち歩いている携帯物への愛着という個人的なことが、決まった形式による15秒のムービーとして次の人の語りへとつながっていき、かつそのつながり全体を俯瞰したり、ひとつひとつのムービーをじっくり見たりすることが自由にできる、というところにある。その面白さを生み出す仕掛けとして、システム設計やインタフェースデザインがあり、弥次喜多装束や小道具があり、部屋のしつらえやコミュニケーションツールがあった。すべて予想どおりうまく機能したが、実際に現場で実施してみて分かったこともたくさんある。それらは、人と人をつなげていくコミュニケーションをデザインするにはどうしたら良いのかという、今後の宿題になった。
ワークショップ会場で参加者がケータイカメラの前に立って話し始めると、そのとき室内に居合わせた人々は、彼/彼女がなにを話しているのかを見守る観客になる。他人から見られていると意識すると緊張してしまい、カメラに向かってうまく話せなくなることもあるし、見られていることでテンションがあがり、参加者と観客との間で思いがけない会話が生まれたりもする。観客の立場になる人とのコミュニケーションも含めて場づくりを考えていたら、もっとできることがあったかも知れない。
あるいは、集まったムービーをプレビューする画面。今回は、時系列の軸に沿って各ムービーを配置し、ムービー間のつながりは線で示した。ムービーから次のムービーへと手繰っていくような見方をするとつながりがよく分かるし、逆にさかのぼって見ていく楽しみもある。これにさらにダイナミックさを加えて、たくさんのムービーがわっと集まってガヤガヤしている感じがあり、それでいて全体の構造をクリアに把握することができ、ズームすればひとつひとつのムービーの詳細が分かる、という表示の仕方に工夫ができると面白いのではないかと個人的には思った。これは純粋に、ダイアグラムデザインとインタフェースデザインの問題である。
いずれにしても、現場での人と人とのつながりがダイアグラムとして画面に投影されるのであり、そういった意味で、場づくりの問題とインタフェースの問題はつながっているのだと思う。うまく説明できなくてもどかしいのだが、現場のアクティブでダイナミックな感じを、画面上に表現することができないだろうか。
長くなるのでこの辺で切り上げたいが、自分にとっての興味対象であるデザインという行為に引きつけて考えると、今回の”Keitai Trail !”は、グラフィックデザイン、インタフェースデザイン、コミュニケーションデザインといった、さまざまなデザインの複合技だったと言える。今回のワークショップがうまくいったからこそ、今後もっと面白いことができるのではないかという欲が湧いてしまったのである。(文責:宮田雅子)

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