2010/12/6 青森放送フォローアップ報告

 2010年12月16日、青森放送のメディアリテラシープロジェクトのフォ
ローアップを実施いたしました。

 青森放送は2006年に公募型の民放連メディアリテラシープロジェクト
実践を行うようになった初年度に参加し、以降2010年に至るまで実践を
続けてこられました。
 こうした活動の継続ができたのは、青森放送の山内千代子さんをはじ
めとしたスタッフの皆さんの熱意の賜物ですが、それに加え県や弘前大
学と「あおもりメディアリテラシーネットワーク」を組織し、「人財あ
おもり丸」というテーマを設け、助成を確保してきた体制づくりの成果
でもあります。
 しかし、実践を始めて5年が経過、様々な面で見なおしが必要となり、
2011年以降はこのネットワークを一旦解散し、別の枠組みを現在模索し
ているという状況です。
             
 開通したばかりの東北新幹線で新青森へ。16日は朝からびっしりのス
ケジュールで、フォローアップを行いました。

9:30 報道制作局長と意見交換
10:00 一般社員約11名を対象としたミーティング&ワークショップ
   ※アナウンサー、テレビ制作プロデューサー、ラジオ制作デ
    ィレクター兼パーソナリティー、テレビ営業、テレビ編成、
    デジタルコンテンツ担当、技術、秘書室の方なども参加。
12:00 現プロジェクトメンバーとの意見交換
16:00 弘前大学にで、アドバイザーの児玉忠教授、サポーターの大
    学生・大学院生と意見交換
    「既参加者(高校生)の追跡調査」の報告 など
    
 全てのセッションにおいて「継続することの意義」そして「メディアリ
テラシーの意味するものの広がり」がテーマになっていったと思います。
その中でも特に私(水島)が意識して話をしたことは・・・青森放送の社
内ではどのように理解されているかは別として、自治体および大学とがっ
ぷり活動を支える組織をつくりあげてきたこの事例は、既に「青森モデル」
といわれるまで評価がなされている、ということ。それと、将来に向けた
継続のありかたを考えるとき、メディアリテラシー活動は「番組制作」に
止まるものではない、実際既にもっと広い意味が社会的に与えられつつあ
ることを踏まえる必要がある–この二点でした。

<午前中のミーティング&ワークショップ>
 一般社員11名+報道局長が参加され、実りがあるミーティングになりま
した。

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 はじめに、山内さんと一緒にプロジェクトを推進してきた星和明さんか
ら、この5年間の取り組みの報告と今年の概要が報告されました(約20分)。
そのあと水島が、11月に大阪で行われたメディアリテラシーフォーラムの
基調講演資料をもとに–「メディアリテラシー」は単に「子どもたち」が
「放送」を学ぶことに止まらない、むしろ危機に直面する「放送」が他の
新しいメディアと連携しながら、再び社会的な位置づけを獲得し、翻って
新しい社会のデザインに寄与していくためのコンセプトなのだ–といった
お話しを(約30分)しました。

 そのあとはワークショップ。手札サイズの無地の「情報カード」を、一
人9枚ずつ配りました。それを使って以下のカードを作成。
 ㈰星さんの報告の中で印象に残った点を3枚書く(「星カード」)、
 ㈪水島の話の中で印象に残った点を3枚書く(「水カード」)、
 ㈫参加者各人が考える青森放送が抱える課題を3枚に(「青カード」)
まず「星カード」を各自一枚ずつ出し、それに「水カード」の中でで関連
しそうなものを重ね(必ずしもくっつかないものは、バラで机の上に出し)
全部出切ったところで、さらに関連しそうな「青カード」を重ねていくと
いう、「UNO」というか「神経衰弱」というか「ババ抜き」というか–
集団KJ法のような遊びをしました。

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 これまでのメディアリテラシーで何をやってきたか(「星カード」)と、
現在のメディアリテラシー概念の動向(「水カード」)との関係、さらに
は青森放送の課題(「青カード」)と結びつけられることで、これまでの
活動で何が出来て、何がこれから必要なのか、そしてそれは青森放送の現
状と、どのように関係づけることができるかを、参加者全員で考えるとい
う体験したというわけです。
 継続はされてきたものの、これまで限られたメンバーだけで頑張ってき
たという実践自体の在り方を見なおし、もっと多くの社員が参加し、会社
と地域の「資産」にメディアリテラシー活動をランクアップさせていく–
これが、今後の青森放送に課せられた課題として見えてきました。
 この結果を踏まえて、星さんをはじめとした現メンバーほか、ワークシ
ョップ参加者数人と、これからの継続のあり方について話し合いました。
これまでの「人財あおもり丸」というテーマ、「番組制作」という手法を
超えて続けていくには、社員一人ひとりの負担を低く抑えながら、多くの
社員が参加できる仕組みを考えなければいけない。例えば、既存の各人・
各セクションのミッション(例えば具体的な番組、コーナー)の中に、メ
ディアリテラシーの要素を発見し、メディアと地域との関係を再構築する
という視点から「改善」を行う方法があるだろう、といったことなど。非
常に可能性のあるアプローチだと思いました。
 その点について報道局長は、「民放連プロジェクトの枠組以前に、もと
もと青森放送には、地域の視聴者と理解しあうための努力をするという遺
伝子があった。それが近年は薄れてきている」という問題意識を強く持た
れていました。話合いでは、これまでの体制にこだわらず、地元経済界な
どのサポートが得られるようにする必要性、さらには社内的には予算面の
保証などを考えるべきなどの具体策に踏み込んだ議論がなされました。

<夕方からの弘前大学での意見交換>
 その後場所を弘前大学に移し、児玉先生と、これまでサポートしてこら
れた大学生・院生たちとミーティングの場を持ちました。大学生たちは、
単に高校生の番組作りを傍からサポートしてきただけに飽き足らず、新た
に自ら番組作りにチャレンジしていました。まずその作品の観賞を通して、
振り返りを行いました。

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 大学生の体験から、これまでの「人財あおもり丸」の枠組みで何ができ、
何ができなかったのかが、明らかになってきました–大学生の(少し大人
の)視点でつくられた今回の作品は、「高校生」が出来る可能性と限界、
例えば”本当にこのプロジェクトは、青森の「人財」開発に貢献できてい
たのか”といった問いを浮かび上がらせました。
 さらに、これまでの5年間活動に参加されてきた「高校生+元高校生」
にアンケートを行い、それを卒論にまとめた学生から報告がありました。
アンケートは約8割という極めて高い回収率で、そこからはこの活動が彼
らの心に何を「学び」として残したかが見えてきました。それは地元「青
森」との結びつきを確認するという一言に集約されるかと思います。「高
校生」という時代にそのことを意識することの意味を改めて考えさせられ
ました。
 学生たちは、単に「お手伝い」をしていたのではなく、自分たちの問題
としてメディアリテラシーに向き合っていました。一人の大学院生(自ら
番組制作を行ったリーダー)は、4年間サポートを続けて来たと言います。
これだけ長い間プロジェクトと学生との絆を保ってきたのは、大変な努力
だと思いました。こうした環境を支えてくださった弘前大学の児玉先生の
ご尽力には、本当に感謝しかありません。
 弘前大学では、児玉先生のような教育学からのアプローチだけでなく、
社会学の先生方もサポートしてくださっており、メディアリテラシーを介
した産学連携のあり方などにも、その後議論は広がっていきました。単に
「放送」を学ぶメディアリテラシーを超えて、「放送の社会性」を地域と
ともに築くという課題を通じて、「社会」そのものを学ぶプログラムとし
てのメディアリテラシーの可能性が垣間見えた時間でした。

 とはいえ、現実は青森放送を始め、地域民放局は極めて厳しい環境下に
あり、こうしたこれまでの成果をいかに次のかたちの中に引き継いでいけ
るかについては、壁や制約も大きいのが現実です。したがって、こうして
少しでも見えてきた可能性をさらに拓いていくためには、まずは議論の流
れを止めないことが大切であることを感じました。メディアリテラシー実
践「青森モデル」の新しいステージでの発展を、これからも応援し続けた
いと考えています。

(報告:水島久光)

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