08/9/15 実践のふり返り 岡山放送で合評会開催

PICT2446.jpgPICT2436.jpg 2008年9月15日、岡山放送で民放連メディアリテラシー実践プロジェクトの合評会が行われました。今回の実践メンバーの岡山後楽館と高松工芸の高校生、岡山放送局のみなさん、さらに高校生のご両親や先生、以前民放連プロジェクトに参加した放送局の方らも参加されました。Mass & Communicationプロジェクトのメンバーからは水越さん、飯田さん、駒谷さん、土屋が出席しました。
 今回の合評会は、関係者が一同に会して活動をふり返り、それぞれ得た「気づき」を共有する、という目的で開催されました。
 すでにお伝えしてきたように岡山放送では、7月13日の顔合わせの会で本格的に活動をスタートさせました( 「7/13 岡山放送(OHK) High School TV Camp 初顔合わせ!」 )。その後7月末に、岡山と香川、2地域間のイメージ交換ワークショップを実施、8月に入り番組企画、取材、撮影、編集と集中的に制作を進めました。8月26日には岡山放送の情報番組「温☆時間」に高校生が生出演、完成作品を放送しました。
PICT2353.jpgPICT2358.jpg 高橋編成局長による「プロジェクトへの御礼」の挨拶で始まった合評会は大きく2つのパートに分かれ、前半は作品を上映した後で高校生相互の意見交換を行いました。後半では司会を私と飯田さんが引き受け、実践活動全体のふり返りと今後の展望について、高校生、局のみなさんに発表してもらいました。
 高校生が制作したのは3分間のミニ番組、テーマは以下の通りです。
岡山後楽館高校A班「ぼっけぇあふれとるが桃太郎」
岡山後楽館高校B班「ぼっけぇ晴れとるが岡山」
高松工芸高校A班「香川のローカルアート」
高松工芸高校B班「香川の家庭のうどん」
(これらの作品は岡山放送のウェブサイトから見ることができます。 http://www.ohk.co.jp/highschool/index.html
PICT2370.jpgPICT2376.jpg どのチームも、その前に実施したイメージ交換ワークショップに基づいてテーマを立てました。岡山は香川、香川は岡山、相手の高校生が模造紙に描いた自分の県のイメージに違和感や少なからずのショックを覚え、それがテーマの下敷きになっています。「UDON」ばかりが強調された香川の高校生は、身の回りのアートや多様に根付く家庭のうどんをテーマに番組を作ることにしました。「桃太郎」や「晴れの国」という県のPRイメージに疑問を投げかけられた岡山の高校生は、その検証番組を作ることにしました。
 それぞれのチームは自分たちの作品を上映した後で「インタビューになかなか答えてもらえなかった」「作るのと見ているのとでは違う」「高校生らしさを出そうとした」など制作に関する自分たちの感想を述べ、相手の県の高校生から、映像に対する質問や「取り上げられていた場所に行ってみたい」「イメージを改めた」などのコメントを受けました。PICT2379.jpgまた、高校生と番組づくりに取り組んだ局員一人ひとりから「想像以上の早さで次々と新しいことを吸収して驚いた」「取材先の選び方が新鮮だった」「教えてはいけないと言われる中、どうヒントを出せばいいか戸惑った」「社外の人と接する貴重な機会となった」といった感想が語られました。
 後半には、放送局が制作しオンエアした本実践の記録番組を視聴しながら、完成した作品そのものではなく、活動全体のふり返りを行うよう試みました。岡山放送ではこの日までに、最初の顔合わせ時の局内撮影ワークショップ、次のイメージ交換ワークショップの模様、高校生による完成作品の発表、という3本の企画を順次「温☆時間」の中で放送し、また、高松工芸高校の制作過程を追ったドキュメントを夕方の「スーパーニュース」の中で放送済みでした。議論では、これらの番組制作を担当した局の方の思いや、高校生の作品がやや縮められてオンエアされたことに対する高校生の意見も述べられました。
PICT2404.jpg さらに、今後のメディアリテラシー実践に向けて「やってみたいこと」もしくは自分たちの経験をふまえた「提案」を高校生、局員の方々から発表してもらいました。高校生からは「もっと長い番組作りをしてみたい」「全国共通テーマでやってみてはどうか」「他のテーマでも制作してみたい」と意欲あふれる意見が出ました。中には「真実を伝える」「地域の人が理解して楽しめる」というもっと議論を掘り下げられれば、と時間の足りないことが惜しまれる意見もありました。
PICT2422.jpg 局のみなさんからは「年齢層を広げる」「学生と高齢者と一緒に行ってみる」「番組コーナー化」といった発展的な意見もあがれば、「若手増員」「参加社員の広がり」と体制の充実を求める声もあがりました。「制作の途中、随所随所でメディアリテラシーの学びの確認を行う」という実践を深化させていくアイディアも出ました。高橋局長からは、無編集の高校生の映像を流すこともふまえた実践の総括番組を作りたい、という意向が伝えられました。
PICT2427.jpg 会は当日出席下さった関係者の方からコメントをいただいて終わりました。水越さんは、高校生の作品もオンエアされた番組も実践の趣旨をふまえていて良かった、とコメントした上で、富山チューリップテレビの実践と比較しながら、今回の岡山実践は時間がやや足りず道半ばな面があり、一連の活動をもう1周行うととても良くなる、例えば高校生の作品の中に「きび団子」ばかりを意図的に強調するような編集があったが、それが果たして良いのか議論を重ねた上で番組作りを行うことが大事である、と述べ、こうすれば良かった、など足りなく感じるところを次につなげていくことが大切、と話しました。また、民放連プロジェクトでは高校生の制作番組を編集することなくオンエアする約束となっていることも指摘されました。
●岡山放送の実践概要……地域イメージを組み換える
PICT2391.jpg 民放連のメディアリテラシー実践プロジェクトでは、「送り手」と「受け手」という異なる立場の放送局員と高校生が共にテレビ番組を制作してきました。その過程で生じる意識や考え方のずれ、葛藤など、一種の異文化コミュニケーションを通じて、参加者一人ひとりが自分の中の「常識」や「ステレオタイプ」を見つめ、あたり前となっている今の「テレビのあり方」を捉え直すことを目指します。
 今回の実践で特にフォーカスされたのが「地域イメージ」です。地域イメージはともすると紋切り型のステレオタイプな像が定着しがちです。それは日常的にテレビなどのメディアによって媒介され、再生産されています。そうしたイメージは地域PRのための戦略として積極的にうち出される場合もありますが、それがガチガチに固定されてしまうと、偏った見方を助長してしまったり、地域に根付く多様性やその他の多くの表現の可能性を潰してしまったりしかねません。
okayama1.jpgokayama2.jpg 岡山放送は、岡山県だけでなく四国の香川県もカバーし、2県にまたがるユニークな放送エリアを抱えています。そこで、今回の実践では、その特性を活かして、岡山、香川の高校生が相互に交流しつつ番組を制作し、自分たちの住む地域のイメージを見つめ直す実践となりました。テレビ局の方々は、単純に直接番組作りのノウハウを教えるのではなく、高校生の番組制作をサポートし、高校生が「イメージの組み換え」を行っていけるよう、ファシリテーター役を担いました。
kagawa1.jpgkagawa2.jpg こうした目的をふまえ、番組制作に入る前には、岡山、香川の高校生がお互いに相手の地域のイメージを描き、交換するワークショップを行いました。なお、この「地域イメージの組み換え」をテーマとする実践は、2002年度に行った民放連プロジェクトの福岡実践を雛形としたものです。また、イメージ交換のワークショップは「ローカルの不思議」プロジェクトのイメージマップづくりの手法を活用させていただきました。
 放送局員のみなさんは日常業務に追われる中で、また、高校生のみなさんは学校の課題をこなす中で、なんとか時間をやりくりし、実践に取り組まれました。さぞ負担も大きく、大変な実践だったろうと思いますが、一方で私が活動に立ち会う中で印象に残ったのは、高校生も放送局の方も気負いすぎず、肩の力を抜いて、生き生きと実に楽しそうに取り組んでいた姿でした。それが見ていて楽しくなる、思わず笑みのこぼれる作品を生みだす力になったと思います。
 水越さんが指摘されていた「次へ」の積み残しとしては、今回の実践は夏休みという限られた時間の中で行われたため、高校生は他者がもたらす「メディアに媒介された地域イメージ」には批判的な眼差しを向けることができましたが、それを受けて制作した自分の作品に対して同様の批判の眼を向ける機会を充分に持ち得なかったことがあげられると思います。他者だけでなく自己の送り出す「メディアが媒介するイメージ」に気づき、その操作性を自覚しつつ制作に取り組めること、それが責任を伴った「表現する」という行為であり、新しい表現を社会へと拓いていくためのメディアリテラシーの大切な素養となるでしょう。ぜひ今回の実践が次のメディアリテラシー活動のステージへとつながっていけばと思います。
(執筆:土屋祐子 執筆協力:飯田豊、水越伸)

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